静岡・ネクト新茶手摘み研修会 

2002年4月27日開催 有限会社ネクト

静岡駅前のバス停からすでに研修会開始、という感じでした。
こんな朝早い時刻にあのような山奥(静岡市新間)のバス停まで行く人は、そういません。
二人、三人、と増えていき、蓋をあけてみれば、みんなインストラクター。
あっという間に名刺交換会になってしまいました。
たくさんいるものだから、交換した名刺を家で見ても、はて?誰だったかな?と思う次第。
会場の最寄りのバス停は「久住沢入口」。普段は乗る客がほとんどいないのでしょう。
いつまでも降りない団体がいるので、運転手さんは乗り間違えているのでは?と、かなり不安そうでした。


研修会の会場である、有限会社ネクトさんがあるところは、本山茶の生産地です。本山茶は山間部の茶で、静岡の中でも、上物の茶葉になります。和束の時も、急な山の斜面にある茶畑を見て驚きましたが、ここもかなり急な斜面に茶畑があります。あれは、山のシカにしか摘めない、と言っていたら、このあたりには、山のシカが出るようで、人間が茶を摘んでいるのを上から眺めていたりするそうです。



    
     実習でお世話になった茶畑。摘裁面低し。
     腰にきそうだ
新茶手摘み実習


小さすぎず、大きすぎず、
程良い大きさでおいしそう


今回の研修の内容は、
「新茶手摘み実習」、「手揉み見学」、
「最新荒茶製造施設見学」、
「新茶についての講習と実習」、
と、盛りだくさん。

説明の後、手摘みをする茶畑へ向かいます。
今回提供してもらった茶畑は、やぶきたの15年ものの茶樹です。プロにも見本を見せてもらいながら、摘んでいきます。ちょうど今が新芽の収穫の最盛期。とてもおいしそうな新芽たち。
一芯三葉の茎のところを親指と人差し指で挟み、茎にそって上へひっぱると、三葉目の下5mmぐらいのところで切れて、無理なくきれいに摘み取れます。そこに節でもあるかのようです。切り口がきれいにできるところで摘まずに、無理にひきちぎったり、爪をたてて摘んだりすると、そこから酸化が進んで、葉が傷んでしまいます。また、葉がちぎれると、これも切り口から酸化が進むので、そのような茶葉を混ぜてはいけません。
まだまだ新芽が残っていたけれども、時間切れで引き揚げ。手摘みしたい!と言えば、いい働き手だから、歓迎してくれるところもあるらしい。来年はそうしてみようかな。今回摘んだ茶も「手摘み品」として売るとか。ということは、私たちはバイト?

 
手揉み見学


1.蒸して


2.広げて冷まして


3.焙炉に移す



4.葉ぶるいで葉の露を落とす

摘み終わった茶葉を計量。ひと焙炉ぶん、3kg使います。直径50cmほどの筒状の蒸し器で蒸します。「まんぱち蒸し」です。はちまんばちで、ひと焙炉。1回につき300〜400gを10〜20秒、蒸します。
葉の裏が白いと蒸しが足りず、蒸し過ぎて葉の繊維が切れてしまってもだめです。蒸す時間が長いと、葉の色が黄色っぽくなります。蒸し加減をいろいろ変えて見せてくれました。
蒸し始めは、青臭みが強く、それがすぎると甘い香りになります。長い箸のようなもので葉をかき混ぜて、蒸しにムラができないようにします。簡単に混ぜているようですが、挑戦した人はなかなかうまくいかず、葉が容器の側面に付いたり、葉どうしがくっついたり。

蒸した葉は一度籠のようなものに移して冷まします。ひと焙炉ぶんできたら、焙炉に移し、「葉ぶるい」します。葉についた露を落とす作業ですが、30分ぐらい続くので、その間、工場見学へ案内されました。機械は展示場で見たことがありますが、実際に動いているのを見るのは初めてです。と、言っても、ほとんど機械の中で行われている作業なので、あまり様子は見えないのですが。
工場見学の後、すぐ室内の実習に入ってしまったので、手揉みの様子はほとんど見られませんでした。端から見ると、ちょっと寂しい光景だったかも。


 
新茶についての講義と実習


品種別のお茶を外観、内質、急須で、
と三つの視点から判定






さて、テーブルにずらりと並べられているのは、品種別のお茶です。前々から、品種によって、どのようにお茶の味が違うのか気になっていたので、とても楽しみです。

今回は、色や味、香りについて自由に表現する試みがされました。お茶を専門に扱っている者は、色や味、香りなどの表現が固まってしまっていて、新しい表現が出ない。ぜひみなさんの新鮮な感覚で表現した言葉を参考にしたい、とのことです。しかし、色や味、香りの表現というのはどうしても、何かに似ている、としか表現できないですね。あるいは詩的な表現か。「平安朝の初夏」と色を表現されても、誰でもすぐにはわかりませんね。


教材になった品種の解説
注・早生品種(わせひんしゅ)や中生種とは、茶の新芽を摘み取る時期の早晩を表す。
  早生品種が一番早く、晩生種が一番遅い。中生種はそれらの中間の時期。

やぶきた(静岡県在来種の実生中から選抜)
中生種。煎茶として品質極めて優良で、独特の強い香気を持ち、滋味優雅で甘みにとむ。

おおいわせ(やえほXやぶきた)
早生品種。品質はやぶきたと同程度に良好であり、外観では形状は細よれで色沢がよく、内質は穏和で爽快な香気と調和のとれた滋味をもっている。

さやまかおり(やぶきたの自然交雑実生から選抜)
中生種。煎茶として内質は香気が強く良好である。

さえみどり(やぶきたXあさつゆ)
早生品種。煎茶品種は極めて良好で、外観では色沢が鮮緑色で優れ、内質では香気がやぶきたと異なる芳香を有し、滋味は旨味があっていずれも良好。

やまかい(やぶきたの自然交雑実生)
中生種。一番茶は、特に形状が良く鮮緑色で外観は優美であり、香気に特徴があり滋味はく中生種。一番茶は、特に形状が良く鮮緑色で外観は優美であり、香気に特徴があり滋味は苦渋味が少なく甘みがあるが、やや濃厚さに欠ける。

あさつゆ(宇治種の実生中選抜)
中生種。品質優秀で天然玉露の名がある。色沢と滋味が得によい。

ゆたかみどり(あさつゆ自殖種)
早生品種。外観の形状がやや大きく、内質の滋味がやや強い。

(上記解説は配付資料を参考)

やぶきたは、馴染んだ味とあってか、とても飲みやすかった。
おおいわせは、やぶきたとあまり違いが無いように感じた。
さやまかおりは、旨味が少ない。
さえみどりは、班内でも一番好評で、高温で出しても甘みが感じられ、一番おいしかった。
やまかいは、先ほどの手揉み名人曰く、ビニル系のにおい。そう言われてみれば、そのような・・・。
あさつゆは、色づけによく使われるそうで、味はあまり感じられなかった。いい色してます。
ゆたかみどりは、一番渋かった。深蒸しだからかな?

あさつゆや、ゆたかみどりは南九州で多く栽培される品種です。
こうやって飲み比べてみると、普段よく飲むお茶はほとんど「やぶきた」なんだな、と思います。
この中でどれか買うなら、さえみどりかな。
近くにお茶の小売りをしている人がいたので、いろいろ話が聞けました。
これだけ品種があって、それぞれに味や香りに特色があるのに、ひと品種だけで売られることがあるのは、「やぶきた」と「やまかい」ぐらいだそうです。他のお茶は、「やぶきた」にブレンドされて売られます。
色みの調整、収量の調整など、理由はいろいろあります。一品種のみで数種類売り出したら、売れるのではないか?と思いますが、実際は、ひと種類のお茶を一度買ったらずっとそのお茶しか買わない消費者がほとんどです。玄米茶なら玄米茶だけ、スーパーでいつも買う煎茶だけ、あるいは、たまたま売り出されているのを買った、など。こういう味が欲しい、この産地のものがいい、と目的を持って買う人は少ないようです。

お茶は、苗から育てて、一定の収量が確保できる程に育つまでに5年ぐらいかかります。
それまでにお金も時間もかかるわけで、育ったものから利益があがらないと、生産者には厳しい状況なのです。そうなると、確実に収益があがる品種に依っていくのは、当然のことです。
しかし、「やぶきた」のみでは、日本茶の楽しさも薄い。
山間部の茶、平地の茶、東の地方の茶、南の地方の茶、産地によっても違いがあります。中国茶や紅茶のように、いろいろな茶葉があってもいいと思います。


ちょっと余談
帰りは車で静岡駅まで送ってもらいました。その時、TVチャンピオンの「お茶通選手権」に出演していた山上さんや、出題アドバイスをした高宇さんと同乗。いろいろ裏話を聞けましたが、一番気になったのは、高宇さんがとても焙炉を欲しがっていることでした。あれはねえ、生葉がすぐに手に入る状況でないと、使えないよなあ。大きいから邪魔になりそうだし、助炭(手揉みをする面あたり)の紙の手入れとか面倒臭そうだし。私なら要らない。





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